キャリアの棚卸しでは、一件の仕事を、出来事・自分の行動・結果・支えになった条件に分けて書きます。 「強みがない」と考え込む前に、実際に何をしていたかを取り出す方法です。
以下は架空のなつめの記入例です。転職に成功した実話や、採用される書き方の保証ではありません。自分の仕事に置き換える際も、確認できない数字や評価は足しません。
最初は一件の仕事だけを選ぶ
退勤前、なつめは机の引出しから、以前の提案資料を出しました。ノートに書けたのは「提案資料の作成を担当」の一行だけです。何年働いたかは書けても、自分が役立った点はすぐには出てきません。
なつめは、完成品ではなく、作り始めたときの状況を思い出しました。営業担当者ごとに、商品の説明順が違っていたこと。必要な情報がそろわず、同じ質問を何度も送っていたこと。その二つを、最初の一行の下に足します。
棚卸しの題材は、会社全体を変えた成功でなくても構いません。「質問をまとめた」「確認漏れに気づいた」など、始まりと終わりが思い出せる一件を選びます。
「担当した」を、実際の動作へ書き直す
形容詞より、何を変えたかを先に置く
「調整力がある」「責任感が強い」と書く前に、手を動かした内容を並べます。なつめは、送られてきた説明を項目ごとに並べ、足りない欄を確かめ、営業担当者へ、確認事項をまとめたメールを送りました。
このように書くと、資料作りの中にも、情報の分類、確認、依頼という別々の作業が見えてきます。全部が得意だと決める必要はありません。どの部分を自分で判断したかが、次の確認材料です。
他の人がしたことも分けて残す
商品の説明が正しいかは、なつめ一人で判断したわけではありません。内容の確認は営業担当者、最終的な掲載範囲は上司が決めました。その助けを消すと、自分が次も同じ結果を出せる条件が分からなくなります。
自分の役割を小さく書くことと、価値がないことは別です。 チームの成果を全部自分の実績にせず、その中で受け持った作業を具体的に残します。
四つの欄にすると、経験の中身が見える
| 欄 | なつめの記入例 |
|---|---|
| 出来事・課題 | 担当者ごとに商品の説明順が違い、資料に必要な情報がそろっていなかった |
| 自分の行動 | 情報を項目ごとに並べ、不足箇所をまとめて質問した |
| 結果 | 同じ順で商品を見比べられる資料が完成した。売上への影響は未確認 |
| 支えになった条件 | 営業担当者が内容を確認し、上司が掲載範囲を決めた |
なつめは「売上に貢献した」と書きかけて、いったん消しました。資料が使われたことは覚えていても、その後の売上との関係は確認できていなかったからです。
結果の欄に数字がない場合も、何が完成したか、どの確認を終えたか、相手からどんな言葉を受けたかは書けます。相手の評価を覚えていないなら、都合のよい言葉を作らず、未確認のままにします。
うまくいった結果と、負担だった条件を一緒に残す
完成まで進めた仕事でも、また同じ形で引き受けたいとは限りません。なつめは、情報を並べ替える作業には関心がありました。一方、締切当日に変更が重なる進め方は、次も続けたいとは思えませんでした。
ノートの余白には「資料作りが嫌だった」ではなく、「変更を受け付ける範囲を、先に決めておきたかった」と書きます。これは会社への評価や心理的な原因の確定ではなく、その場面で感じた負担です。
一件の経験だけで、その人の性格や適職全体は決まりません。同じ作業でも、時間の余裕や協力者が違ったときにどうだったか、別の場面と比べられます。
書けない欄があったら、資料へ戻る
最初から記憶だけで完成させなくても構いません。確認してよい範囲の予定表や、自分の担当記録があれば、仕事を思い出す手掛かりにできます。会社の機密情報や顧客の情報を、私用端末や外部サービスへ持ち出さないようにします。
- 行動が出ない:作業の最初と最後に、何を受け取り、何を渡したかを思い出す。
- 結果が曖昧:完了した物や確認できた反応だけを書き、評価は保留する。
- 負担しか出ない:何が重かったかを先に残し、強みの表現を急がない。
記入の枠が欲しい場合は、厚生労働省のマイジョブ・カードで、キャリアの振り返りや作成の案内を確認できます。この記事の四欄は編集部の整理例で、公式様式を置き換えるものではありません。
経験から、次に聞く一問を作る
なつめが拾えたのは、「企画職に向いている」という答えではなく、「ばらばらの情報を並べ直す作業は、もう少し続けたい」という希望でした。次に仕事を調べるときは、その作業がどれくらい含まれるかを確かめます。
経験をほかの候補と照らす段階なら、仕事を比べる判断基準へ進めます。一人では役割を切り分けにくければ、この一件を相談先へ持っていく方法もあります。
今日書いた一行を、すぐに「強み」の見出しへ変える必要はありません。次に同じ仕事を頼まれたとき、何を自分が担い、どの条件を確かめたいか。その答えが前より具体的になっていれば、棚卸しの材料は増えています。
